知れば知るほど食べたくなる! 秋に色づくリンゴは、神様からの贈りもの

永遠の命を授ける神様の食べもの

つやつやとまっ赤に色づいた実が、スーパーマーケットや青果店の店先を彩る季節になりました。一年中見かける果物のためか季節感が薄れてしまっていますが、リンゴの旬は言うまでもなく秋。冬から春に見かけるものには貯蔵品が多く、夏のリンゴは南半球のニュージーランド産が中心。フレッシュなもぎたてを食べられるのは、まさに今の季節です。

英語のことわざに、「An apple a day keeps the doctor away(1日1個のリンゴは医者を遠ざける)」というものがあります。欧米では古くからリンゴは体によい食べものとされてきました。その栄養成分は、ビタミンC、カリウムなどのミネラルのほか、疲労回復によいといわれるリンゴ酸やクエン酸、赤い皮にはポリフェノールが、またペクチンなどの食物繊維もたっぷり含まれています。熱に弱いイメージがあるビタミンですがリンゴの場合、過熱しても壊れにくい酸化型ビタミンC。抗酸化作用があることで知られるポリフェノールは、熱を加えることで体に吸収されやすくなります。生で食べるのはもちろん、熱を加えてジャムやお菓子にしても栄養成分が損なわれにくく、さらに保存性も高い。最近では新種のフルーツに押され存在感がちょっぴり薄れがちですが、じつは優れものの果物なのです。

ギリシャ神話では永遠の命を授ける神様の食べものとして紹介されているリンゴ。今回はもぎたての果実が手に入る秋に、もっと食べたくなるリンゴにまつわるエピソードのあれこれを紹介します。

 

ギリシャ神話にも登場するリンゴは、人類が栽培した最古の果物

遊牧民とともに西へ、東へ、旅するリンゴの歴史

 

日本のリンゴ生産量日本一は、青森県弘前市

まず、世界を旅して日本にたどり着いたリンゴの歴史にふれておきましょう。

リンゴは人類が栽培した最も古い作物といわれ、8000年以上前から食べられていたという説も。中央アジアが原産とされ、その起源であるカザフスタン最大の都市・アルマトイという言葉は、「リンゴの父」「リンゴのふるさと」という意味。ここから遊牧民とともに山岳地帯を超え、西へ、東へと伝わりました。シルクロードの旅人は、道中の食料として袋に詰めて持ち運んだのだとか。ビタミン、ポリフェノールなど栄養成分の認識がまだなかった時代、旅人たちはこの果実を食べながら過酷な日々を過ごしていたのかもしれませんね。ヨーロッパに伝わってからは品種改良が進み、アメリカへは移民によって持ち込まれました。

日本に初めてリンゴが紹介されたのは、鎌倉時代。中国から持ち込まれた“和リンゴ”と呼ばれるもので、主に観賞用だったそう。食用としては明治に入ってアメリカやヨーロッパから苗木が導入され、まず東京・青山にあった官園に植えられました。そこから日本各地に配布され、冷涼な気候が栽培に適していた青森、岩手、長野などで栽培が盛んになりました。これが私たちが食べている、日本における西洋リンゴの始まりです。

 

青森県黒石市にある「りんご史料館」。日本のリンゴ栽培の歴史がわかります

実はすごい! 世界に誇る日本のリンゴたち

リンゴは世界の80カ国以上で栽培されています。ひと口にリンゴといっても品種によって大きさ、色や味、歯ごたえもさまざま。現在、世界中におよそ1万5000の品種があり、私たちが手に入れて食べることができるものだけでも約40種類。このほか日本国内では研究や品種改良のために、2000もの品種が栽培されているのだそうです。

では、世界で一番、リンゴをたくさん栽培している国はどこだと思いますか?

リンゴの年間生産量は約8724万トン。そのほぼ半分の4242万トンが中国産です。二番目に多いアメリカが499万トン、三番目にトルコの360万トンと続き、日本は第20位。けれども、世界で最もたくさん栽培されているのは、日本生まれの「ふじ」という品種なんです。1939年、青森県で誕生し、「日本一の富士のように……」との願いを込め命名された日本生まれのリンゴ。西洋から導入されわずか140年しかたっていない日本で、世界シェアのナンバーワンの品種が生み出されていたというだけで、拍手を贈りたくなりますね。

 

リンゴ市場(弘果弘前中央青果)の場内。積み上げられたリンゴの木箱が圧巻!

 

日本が世界に誇る「ふじ」が誕生した青森県は、リンゴの生産量も日本一。何年か前、出荷が始まったばかりの9月に、弘前市にある通称“リンゴ市場”を訪ねました。モザイクのように整然と並ぶ木箱と、場内を満たす甘酸っぱい香り。その数10万ケース以上もあり、すべてが午前中のうちに競り落とされ、日本各地に出荷されていくそうです。海外に輸出されるものもあり、日本産は希少な高級品として東南アジアを中心に、高値で取り引きされています。

 

お腹のなかからきれいに、さらに肌も潤してくれるリンゴの力

 

加熱や加工品にしても、栄養成分が壊れにくいことが特徴

次に、リンゴの美容効果についてお話ししましょう。

食物繊維のアップルペクチンは、腸の働きを整え体のなかからきれいにしてくれます。美肌・保湿成分のセラミドも含まれていて、これは肌から吸収するほうがいいのだとか。私たちの肌は汗をかいたり乾燥が続くと表面がアルカリ性に近づき、肌トラブルを起こしやすくなります。これに対しリンゴの酸っぱさのもとであるリンゴ酸には、お肌を健康な状態に近い弱酸性に整えるだけでなく、角質を柔らかくする働きもあるのだそう。たとえば、食べ終わった後の皮や芯の部分をネットに入れて浴槽に浮かべれば、香りだけでなくお肌への効果も期待できます。

秋から冬にリンゴの産地を訪れると、食べごろが過ぎたり、傷が付いて出荷できなくなった果実をお風呂に浮かべた“リンゴ風呂”が迎えてくれることがあります。お湯のなかにプカプカと浮かぶ赤い果実を見るだけでも気持ちが華やいできて、さらにお肌も潤してくれるなんて、産地ならではの贅沢な楽しみ方です。また、繊維や種、樹皮を練り込んだリンゴせっけん、保湿効果があるとされるリンゴ酸を生地に配合した肌着も開発されています。さらに、リンゴジュースを作るときに出る搾りかすを原料にした固形燃料・バイオコークスの開発も進んでいるのだとか。お腹やお肌にいいうえ、環境にも優しい。知れば知るほど、「リンゴってすごい!」と思わずにはいられません。

 

“飲むリンゴ”シードルに注目!

    

自家製シードルづくりに挑戦してみました

お酒好きの私にとって、リンゴのワイン、シードルも気になる存在です。

記録に残る世界最古のシードルは、ローマ人が作ったという説が有力です。ヨーロッパのシードルの三大産地は、フランス北西部のノルマンディー地方とブルターニュ地方、イギリス南西部、そしてスペイン北部で、いずれもブドウがうまく育たない土地。リンゴ果汁は樽に入れておくだけで簡単に発酵するため、ワインより手軽にできるとして盛んに造られるようになりました。

建国間もない18世紀のアメリカでも、シードルは人々の暮らしに欠かせないものだったとか。きれいな水が手に入りにくかった土地では、アルコールに消毒効果があるため、「水より安全な飲みもの」として重宝され、樽詰めのシードルが通貨として使われたこともあったそうです。

ちなみに、日本で最初にシードルが製品化されたのは1956年の青森県弘前市。そのもっと前から、地元ではリンゴのどぶろくのようなお酒を家庭用に造り飲んでいたといいます。ヨーロッパではブドウが育ちにくい土地で造られていたように、寒さが厳しくお米が育ちにくい東北の地では、日本酒の代わりに飲まれていたことが想像できます。

この話を聞き、私もシードル造りにチャレンジしてみました。リンゴを皮ごとすりおろして搾った果汁にワイン酵母を加えて瓶に詰め室温においておくと、1~2日で小さな泡がプクプクと湧き、発酵が始まります。瓶の底に澱のようなものが沈殿してきたら、上澄みの部分を別の瓶に移し1週間から10日おくと完成です。アルコール度数はそんなに高くないですが、日々発酵が進んでいく様子を観察する楽しさも加わって、“自家製シードル”の味は格別! たくさん出たリンゴの搾りかすは冷凍しておき、カレーやハンバーグの隠し味に利用しています。

 

フードロス対策にもつながる リンゴをもっと美味しく食べる方法

 

食べやすいうえ、芯の部分の星形もかわいいスターカット(写真提供:一般社団法人 青森県りんご対策協議会)

 

最後に、リンゴの保存方法と、無駄なく美味しく食べる方法をご紹介しましょう。

ほかの果物に比べ保存性が高いリンゴですが、新鮮なうちに食べたほうが美味しいことは間違いありません。室温におくと歯ざわりが悪くなるのが早く、風味が落ちて味もぼけてきます。たくさん手に入ったときは、野菜用保存袋に入れて空気を抜き、密閉して冷蔵庫に入れておくのがおすすめ。リンゴ専用の保存袋も販売されているのでチェックしてみてください。

保存時は、ほかの果物や野菜と同じ袋に入れないこと。リンゴは収穫後も呼吸をしていて、エチレンガスを吐き出しています。このガスには成長ホルモンのような働きがあり、固いキウイやアボカド、青いバナナと一緒にしておくと、すごい速さで熟成が進みます。未熟な果物を追熟させるには便利ですが、野菜や果物が傷みやすくなるので注意してください。

一方、興味深いのは、ジャガイモと一緒にしておくと、発芽しにくくなること。ジャガイモの芽にはソラニンという毒性物質が含まれていることが知られていますが、これを抑える働きがあります。

ポリフェノールと食物繊維を豊富に含む皮に近い部分まで美味しく食べられるのが、皮つきのまま真横にスライスする「スターカット」という方法です。まん中の芯の部分が星形に見えることから、こう呼ばれるようになりました。果肉に対して皮の面積が少ないため皮つきのままでも食べやすく、好みの厚さにスライスすれば、かむ力が弱い小さな子どもや、お年寄りでもサクサクと食べられます。スターカットなら、食べられないのは芯とツルの部分だけ。栄養成分をほぼ丸ごと摂れるうえ、廃棄量も減ってフードロス対策にも貢献できます。

スーパーマーケットを訪れたら、いつもは何気なく通り過ぎているリンゴ売り場をよ~く眺めてみてください。おなじみの「ふじ」「むつ」「つがる」などのほか、いままで知らなかったリンゴの品種に出合える可能性は大。たとえば、「スイートメロディ」は黄色いリンゴ。皮だけでなく果肉も赤いのは、「紅の夢」「ムーンルージュ」。緑色の光沢が特徴の「はつ恋ぐりん」は新しい品種でまだ数は少ないですが、見かけたらぜひ食べてみて。糖度も酸味も強くて、その名のとおり“きゅんっ!”とくる初恋を思い出させてくれるかも……。

こうしてみると、リンゴの品種は名前までもロマンチックなものが多いことに気づきませんか。愛らしい姿でキャラクターやデザインのモチーフに選ばれたり、詩や小説に登場することも少なくないこの果実には、まだまだいろんなエピソードが隠されていそう。知れば知るほど興味が深まり、食べるのが楽しみになってきます。改めてその存在に注目し、いろいろと食べ比べてみたいですね。

 

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参考資料

1.『リンゴを食べる教科書 健康果実のひみつ』丹野清志/著(ナツメ社、2017年)
2.『リンゴの歴史』エリカ・ジャニク/著 甲斐理恵子/訳(原書房、2015年)
3.青森県庁農林水産部りんご果樹課『データで見るりんご 2021年』 https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/nourin/ringo/ringo-data023.html

4.『まるかじり! りんごの本』「りんごの本」編集部/編(美術出版社、2014年)
5.『いつもの野菜まるごと百科』野菜の教室/著(かんき出版、2016年)
6.『一般社団法人 青森県りんご対策協議会』 https://www.aomori-ringo.or.jp/

ライター

トラベルライター・編集者永田さち子 Sachiko Nagata
日本のみならず世界の旅、食、ライフスタイルをテーマとした記事を執筆。
最近は、旅先での街歩きと散歩を兼ねた“旅ラン”に夢中!好きな旅先はハワイ。渡航歴70回以上を誇り、著書に、ガイド&エッセイ『おひとりハワイの遊び方』『ハワイを歩いて楽しむ本 海・山・街歩き&ラン』(実業之日本社)、『よくばりハワイ』シリーズ(翔泳社)ほか。海外旅行情報サイト『Risvel(リスヴェル)』にトラベルコラム『よくばりな旅人』を連載中。www.risvel.com Instagram:@naganaga88